アメリカの映画やドラマを見ていると、公園の屋外コートでピックアップゲームが繰り広げられるシーンによく出くわします。青空の下、フェンス越しに観客が声援を送り、時には有名選手までふらっと混ざってプレーする——あの空気感は、日本ではなかなかお目にかかれないものです。
特に西海岸、カリフォルニアの公園には「コートが常設されていて、誰でもふらっと混ざれる」というイメージがあります。実際のところはどうなのか。今回はNotebookLM(nlm CLI)を使い、アメリカの英語ソースを中心にストリートバスケット事情を調べてみました。良い面だけでなく、治安や犯罪といった影の部分にも、あえて目を向けています。
映画そのままだった、西海岸のストリートボール
ヴェニスビーチ(ロサンゼルス)——「ヴェニスボール」の聖地
太平洋とヴェニスの遊歩道に挟まれた4面のコート。スケーターやボディビルダー、椰子の木に囲まれたこの場所は、ロサンゼルスの”ハードコートの魂”と呼ばれています。ある平日の午後には、家族連れの2on2、フリースローだけをひたすら練習する人、そしてストリートボールのレジェンドや大学選手、プロ選手まで入り乱れたリーグ戦が同時に行われていたそうです。コービー・ブライアントはここでのピックアップゲーム中に手首を骨折し、レブロン・ジェームズはH-O-R-S-Eで負けたという逸話も残っています。
1991年の映画『ホワイトメン・キャント・ジャンプ』の舞台としても有名になったこの場所は、夏になると2006年から続く「ヴェニス・バスケットボール・リーグ」が開催され、1日最大3万人が訪れる観光シーズンのピークに合わせて、豪快なダンクと威勢のいいトラッシュトークが響き渡るといいます。
ベイエリア——モスウッドパークという伝説
オークランドのモスウッドパークは、東ベイ地区で最も有名な屋外コート。ゲイリー・ペイトン、ジェイソン・キッド、ブライアン・ショウ、ビル・ラッセル、ポール・サイラスといった錚々たるNBA選手たちが、地元のストリートボール伝説デミトリアス”フック”ミッチェルとともに腕を磨いた場所です。ゴールデンステート・ウォリアーズとカイザー・パーマネンテの資金で改修され、コートはウォリアーズカラーの青と黄色に塗られ、プレキシガラスのバックボードや新しいリムが設置されています。
オークランドのチャイナタウン近くにあるリンカーンスクエアパークも地元で評判の高いコートですし、バークレー最古の公園であるサンパブロパークは、170人規模の女性ピックアップバスケコミュニティの拠点にもなっているそうです。
シアトル——湖畔と丘の上のコートたち
シアトルにも名物コートが点在しています。グリーンレイク公園のコートは、ゲーム『NBAストリートVol.2』にも登場した”聖地”のひとつ。キャピトルヒルの中心にあるキャルアンダーソン公園、セントラル地区のジャドキンスパーク、ビーコンヒルの高台からダウンタウンとオリンピック山脈を一望できるジェファーソンパークなど、それぞれの街の個性が反映されたコートが週を通して賑わっています。

光があれば、影もある——治安という現実
ただ、公園のバスケットコートを取り巻く現実は、明るい話ばかりではありません。今回調べる中で、実際に起きた深刻な事件もいくつも見つかりました。
2013年9月、シカゴ南部のコーネルスクエアパークのバスケットコートで銃撃事件が発生し、3歳の男児を含む13人が負傷しました。ギャング関連の事件とみられ、この公園は一時「戦場」とまで呼ばれるほど荒廃したイメージを持たれるようになります。しかし地元の小学校が始めた”Play with Potential”という校庭プログラムを通じて、放課後の時間に子どもたちが公園を使い続けたことで、日中のギャングの活動は徐々に減少。血痕と規制テープに覆われていたコートは、今では子どもたちのピックアップゲームで賑わう場所に戻ったといいます。
より最近の例では、2026年春にテキサス州ガレナパークのバスケットコートで乱闘から発砲事件が起こり、1人が死亡、2人が負傷。市長は即座に、市内すべての公園を午後9時30分から午前6時まで閉鎖する夜間ルールと、24時間体制の警備拠点の設置を発表しました。
こうした事件を受けて、一部の自治体や学校が選んできた対策が「リムの撤去」です。シカゴの調査報道メディア『The Chicago Reporter』の調査では、市内の公立学校の実に4分の3が屋外バスケットゴールを持たないことが判明しました。1996年からの十数年で、ゴール設置校108校のうち54校でリムが撤去され、新設は20校にとどまったといいます。ハンソンパーク小学校ではリムを半分に切断し、フランツ・ペーター・シューベルト小学校では壊されたリムをあえて修理しなかった——理由の多くは「深夜にたむろする若者やギャング活動を防ぐため」でした。
一方でこの動きには、はっきりとした反対意見もあります。当時イリノイ州上院議員だったバラク・オバマ氏は、この調査の中で「バスケットボールは、貧しい都市部の若者にとって数少ない、安価に楽しめるスポーツだ」とした上で、「若い黒人やラテン系の男性が大勢集まっているというだけで、自動的にトラブルの元だと見なされる偏見がある」と指摘しています。コミュニティ団体の関係者からも「リムを撤去してもギャング活動そのものはなくならない。必要なのは、バスケができる場所を取り上げることではなく、そこでライフスキルを学べるプログラムをつくることだ」という声が上がっていました。
撤去だけに頼らない取り組みとして注目したいのが、CPTED(環境設計による犯罪予防)という考え方です。コートを見通しの良い場所に配置する「自然監視」、公共空間と私的空間の境界をはっきりさせる「自然なアクセス管理」、地域イベントを積極的に開催して”正しい利用者”を増やす「アクティビティ・サポート」などの原則を採用する自治体が増えています。ワシントン州ロングビューのアーチー・アンダーソン公園では、老朽化した木製ポールを防犯に配慮したLED照明付きの鉄柱に交換し、夜10時〜11時には自動消灯するタイマーを設定することで、治安と利用時間のバランスを取っているそうです。

| コート名 | 地域 | 特徴 | 治安・安全に関する情報 |
|---|---|---|---|
| ヴェニスビーチ・コート | 西海岸(ロサンゼルス) | 映画『ホワイトメン・キャント・ジャンプ』の舞台。2006年開始の「ヴェニス・バスケットボール・リーグ」開催時は1日最大3万人が来場 | 観光地で人通りは多いが、周辺には路上生活など治安面の課題も指摘される |
| モスウッドパーク | 西海岸(オークランド) | ゲイリー・ペイトン、ジェイソン・キッドらNBAスターを輩出。ウォリアーズの資金で改修 | 改修後は良好な環境が保たれている |
| ラッカーパーク | 東海岸(ニューヨーク・ハーレム) | 1950年創設、「ストリートボールの聖地」。ウィルト・チェンバレン、Dr.J、カリーム、コービー、デュラントらが出場 | 創設者ラッカーは”若者を路上から遠ざける”目的で大会を開始 |
| グッドマンリーグ(バリーファーム) | 南部(ワシントンDC) | 1977年発祥、「平和・愛・バスケットボール」を掲げる名物サマーリーグ | 高犯罪地域にありながら、試合中は非公式の”休戦”で治安が改善するという証言も |
| コーネルスクエアパーク | 中西部(シカゴ) | 学校の校庭プログラムを通じ、地域が公園を”取り戻した”再生事例 | 2013年に銃撃事件(13人負傷、3歳児含む)。その後ギャング活動が減少 |
| ジャクソンパーク | 中西部(シカゴ) | ミシガン湖を望む景観。市内屈指の手入れの行き届いたコート | 特記事項なし |
西海岸だけじゃない。全米に広がるコート文化
ラッカーパーク(ニューヨーク・ハーレム)——ストリートボールの”聖地”
1950年、地元の教師だったホルコム・ラッカー氏が「若者を路上から遠ざけたい」という思いから始めた夏の大会が、今や世界で最も有名なストリートコートの起源です。掲げたモットーは”Each one, teach one”(ひとりがひとりを教える)。ラッカー氏の指導を通じて700人以上が大学バスケの奨学金を得たといいます。1954年には「ラッカー・プロリーグ」を創設し、地元のストリートボールレジェンドとプロ・大学選手を直接対戦させる形式を生み出しました。ウィルト・チェンバレン、ネイト・アーチボルド、そしてジュリアス”Dr.J”アービングもこの舞台から羽ばたいた選手たちです。1965年にラッカー氏ががんで39歳の若さで亡くなった後、1974年に公園は彼の名にちなんで改称されました。以降もカリーム・アブドゥル・ジャバー、ヴィンス・カーター、アレン・アイバーソンら錚々たる顔ぶれが出場し、2002年には3連覇直後のコービー・ブライアントがサプライズ出場、ケビン・デュラントが66得点を記録するなど、伝説には事欠きません。
グッドマンリーグ(ワシントンDC)——「平和・愛・バスケットボール」
1977年、ワシントンDCの公営住宅街バリーファームで、近所同士のちょっとした賭けから始まったサマーリーグ。2000年、地域の若者を見守り続けたメンター、ジョージ・グッドマン氏(1984年に殺害)を偲んで現在の名前になりました。1996年からコミッショナーを務めるマイルズ・ロールズ氏は「平和・愛・バスケットボール」を掲げ、試合中は非公式ながら”休戦”の空気が生まれるといいます。「ここにいる犯罪者たちも、ゲートの中にいる間はおとなしい」とロールズ氏。DJの音楽とホットドッグの屋台が並ぶ会場は”家族の集まり”のような雰囲気で、ジョン・ウォールやマイケル・ビーズリー、地元出身のケビン・デュラント(2008年に62得点)らNBA選手も出場してきました。近年は再開発による立ち退きで、リーグの存続自体が不透明になっているといいます。
シカゴ——線路脇と湖畔、対照的な2つの顔
シカゴには150以上のバスケットコートがあるといわれます。サウスサイドのジャクソンパークは500エーカーを超える広大な公園で、ミシガン湖を望む景観の中、市内でも屈指の手入れの行き届いたコートとして知られています。チャイナタウン近くのマーガレット・ハイ・ディン・リン・パークは高架鉄道の真下、フェンスに囲まれた”檻”のようなコートで、マイケル・ジョーダンやデリック・ローズが出演したCMのロケ地としても有名。ノースサイドのクライボーン・プレイロット・パークは、1994年のドキュメンタリー映画『フープ・ドリームス』の舞台になったことで、世界中からバスケ好きが訪れる場所になりました。

数字で見る、アメリカの公共バスケ事情
最後に、いくつかの統計データも紹介します。都市計画シンクタンクのKinder Instituteによる調査(Trust for Public Landの”ParkScore”データを基にしたもの)では、人口1万人あたりのバスケットゴール設置数は都市によって大きな差があり、最多はバージニア州ノーフォークの28.3基。一方、テキサス州ヒューストンは2.2基(2015年の2.3基から微減)と、全米100都市中64位タイという結果でした。
スポーツ用品業界団体SFIAの「2024年米国チームスポーツ動向レポート」によれば、2023年のチームスポーツ参加者数は前年比で約800万人増(+11%)と、2014年以来最高の水準に回復。追跡対象の24競技中20競技で参加者数が増加したとのことです。
一方で気になるデータも。ニューヨーク市の公園局予算に占める「レクリエーション(スポーツ施設運営など)」の割合は、1970年代には約3割だったのが、2025年にはわずか5.3%(約618億円中32.8億円)まで縮小。専任スタッフも1964年の1,949人から2025年には659人へと66%減少し、市営のバスケットボールプログラムの開催回数も2019年比で70.9%減少しているそうです。予算や人手が細れば、コートがあっても使われる機会は減っていく——という、日本にも通じそうな課題です。
こうした行政サービスの隙間を埋める民間の動きとして面白いのが、ヴェニス発の非営利団体「Hoopbus」です。廃バスの前後にゴールを取り付けて移動式コートに改造し、学校でのイベントやコート改修、女子選手支援プログラムなどを展開。2023年には100万人以上にリーチしたといいます。ロサンゼルスとニューヨークに拠点を持ち、行政の手が届きにくい場所にバスケの機会を届ける活動を続けています。
おわりに
今回いろいろ調べてみて感じたのは、アメリカの公園バスケも、光と影の両方を抱えながら成り立っているということです。ヴェニスビーチやラッカーパークのような”聖地”がある一方で、事件をきっかけにリムごと撤去されてしまった場所もある。それでも、コーネルスクエアパークやグッドマンリーグのように、コートを「あえて使い続ける」ことでコミュニティを立て直した例があるのも印象的でした。
BasketBaseの「場所」ページでも、国内のバスケができる施設情報を紹介しています。海外の事情を知ると、あらためて「安心して使えるコートが近くにある」ことのありがたさに気づかされます。次回のVol.23では、また別の切り口でバスケットボールの魅力を書いてみようと思います。
取材協力・参考:Wildsam「Los Angeles is Basketball’s Secret Capital」、Courts of the World「East Bay」「San Francisco」、CBS News「Best Outdoor Basketball Courts In The East Bay」「Chicago Park Shooting」、Gametime Hero「Top 7 Public Basketball Courts in Seattle」、Wikipedia「Demetrius “Hook” Mitchell」「Streetball」「Holcombe Rucker」「Crime Prevention Through Environmental Design」、ebcruckerpark.com「History」、The Voyager「From Harlem fame to Hall of Fame」、We Are Basket「Top 5 Chicago courts」、Fourteen East「A Guide to Streetball in Chicago」、Goodman League「Inside the Gates, Beyond the Game」、The Tennessee Tribune「Outdoor Summer Basketball Faces Uncertain Future In The Nation’s Capital」、FOX 26 Houston「New security measures for Galena Park」、Urban Initiatives「Testimonial: Recess at Cornell Square Park」、The Chicago Reporter「Game Over: Hoops Disappear from School Playgrounds」、City of Missoula CPTED資料、City of Longview CDBG資料、Kinder Institute for Urban Research「Map: Basketball Hoops Per Capita」、SFIA「2024 U.S. Trends in Team Sports Report」、Center for an Urban Future「Putting the “Rec” Back in NYC Parks & Recreation」、Hoopbus公式サイト ほか。NotebookLM(nlm CLI)によるリサーチ・インフォグラフィック生成を活用しました。
